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2009年7月26日 (日)

雪原に降り立ったパンドラは・・・

パンドラは地中海に着水した可能性が高いのだが・・・この方がよりミステリアスではないか。

モデルのカオリさんは実は「ロカデリック・パンドラ」というバンドのヴォーカルでもあって、これは先日、CDジャケット用で撮影した時のもの。実際のCDの画像とは異なります。勿論、「パンドラ」は彼女のキャラクターだ。

Photo_2


パンドラは、人類初めての女性と言う事になっている。人類に火を与えたプロメテウスに怒ったゼウスが、人類懲罰ターミネーターとして、地上に送り込んだのである(意地悪な神だ)。パンドラとは全てを贈られた者の意。溢れる美と、チマチマしたちょっと役に立つ技術の色々(音楽の才能とか治療の技術とか)を与えられていた。プロメテウスはゼウスによって掛け値無しの無期刑に処せられ、おつとめ中で留守。双子の弟のエピメテウスには、ゼウスの賜物に対しては充分注意するよう言い置いていた。しかし、「仕出かした後で考える」という意味の名を冠せられたエピメテウスに後先は無い。美しいパンドラを見初めて早速、嫁に迎い入れてしまったのだった。何かウイルスに感染するパソコンみたいだ。

勿論、無邪気なパンドラに悪気はない。ただちょっと好奇心が強かったというか、まあ普通だと思うのだが・・・。

絶対に開けてはならないとされる箱(壷との説も)があった。しかも彼女の手の届く場所に。(これはゼウスに持たされたとも、エピメテウスの家に元々在ったとも言われている)。禁止されると却ってつい、と言う事でパンドラは箱の蓋を開けてしまう。尤も、キリストを裏切るイスカリオテのユダと同じで、これも予めプログラムされていた事だろう。

さあ大変、人類を不幸にするありとあらゆる災いが世の中に飛び出し、あわてて蓋を閉めたが時すでに遅く、最後に一つだけ、未来を見通してしまう能力が残ったそうだ。そこで先が見えれば絶望するしかない人間も、何とか夢と希望だけは捨てないでいられる、というお話(諸説ありますが私の解釈です)。

私には、パンドラは純真で、ちょっと好奇心があって、可愛い女性だという気がする。

カオリさんからは、ギリシャ神話の古代「パンドラ」イメージで、しかも可愛い女の子で、しかも動きのある感じで、しかも美しく、と言うハードルの高いリクエストが・・・。

しかしどうもイメージが湧かない。ギリシャ時代のヘアスタイルは、コテを使い、あるいは編んでアップにするもので、カオリさんの希望する動きのあるイメージにはなりにくいのだ。ディーバのヘアメイクスタッフもチームで検討し、あれこれ苦労したと思うのだが、結局ギリシャ時代のテイストを残しつつ流れる髪の形を考えてくれた。

絵画作品の数々を見ると、アトリビュートとして必ず壷か箱が描き込まれているが(時にはキリスト教のイヴになぞらえて蛇がいたりもする)、陳腐なので壷など要らない。実際には黒の布バックで、切り抜いて使えるように撮影した。彼女は脚が綺麗なので脚を出す衣装。さらに風を入れて動きを・・・ちょっと疾走するイメージだな。

この作品では、レタッチで背景を北極圏のオーロラと雪原にしてみた。人影のない夜の極北に密かに降臨した瞬間である。背景はカナダのイエローナイフで撮影したもので、実際この場所は氷点下40℃以下になったが、パンドラはターミネーターなので凍死したりしない。陶器質の肌を持つ輝く彫像のように、シュールな質感を出すために、またその無垢な心を表現するために、パンドラはモノクロにした。
この画像だとSF書籍の表紙にも良さそうだ。

蛇足だが、パンドラの浅はかさと研究熱心さとは科学者のものであろう。科学技術は人間の生活を豊かにもするし、大量殺戮兵器を作ってしまったりもする。遺伝情報工学、いわゆる生命科学と言われる分野でも、人間の倫理を踏み外し、その尊厳を蹂躙する惧れがないとは言えない。数々の理屈は有るとしても、その根底には科学者の「好奇心」が横たわっている。その意味で先端技術は常に「パンドラの箱」と成り得るのである。

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